日々草子 大蛇森の不覚

大蛇森の不覚





休日の読書タイム。
僕はゆっくりと雑誌をめくる…。

「ギャン、ギャン、ギャン!!!」

ああ、今日もうるさい、うちの駄犬!
え?
飼い主の僕が家にいるから、喜んでいるんじゃないかって?

チッチッチッ!
こいつはそんなタマじゃないのだよ。

ったく…あ、これ最近口癖にしようかと思っているんだ。
ほら…愛しいあの人と同じ口癖って…なんかいいかなって。

おっといけない。
話を戻そう。
ったく、一体誰の為に、この僕がこんな雑誌を読んでいると思っている?
チ・ン・チ・ク・リ・ン、お前の為だ、お前だ!

ああ、やれやれ。
僕はこの駄犬には構わず、雑誌に目を戻す。
ったく、本当に何でこの僕が医学雑誌じゃなく…『いぬのきもち』なんてものを定期購読しなければならないんだ!!

やれやれ。
次のページは…予防接種?
ああ、そうだった。
そういや、生意気にこの駄犬にも獣医からそんな葉書が来ていたな。
丁度いい。今日は休みだ。こいつを連れていくとするか。



「ガウ、ガウ、ガウ!!!」
…まったく恐ろしいほど勘のいい奴だな。
僕が葉書を手にした途端、猛烈に吠え始めた。
「うるさい、これはお前に必要なものなんだ!!」
「ガウ、ガウ、ガウ!!!」
ああ、だめだ。テコでも動かないって顔をしている。
しょうがない、キャリーケースがいるか。



「ギャウス、ギャウス、ギャウス!!」
ケースを出したら、一段と吠えっぷりが酷くなった…。
本当に犬の鳴き声なのか?お前、どっかの怪獣なんじゃないのか?
全く、本当に勘だけは鋭い奴だ。
どっかの誰かとそっくりだ。

「ほら、入れ。」
「ギャウス、ギャウス、ギャウス!!」
だめだ、こうなったら…最後の手段しかない。

僕は寝室に行く。
ええと、確かこの辺に…あった、あった。
クンクン…はあ…いい香り…♪
これをあの駄犬の為に使うのは腹が立つが、しょうがない。

「ギャウス、ギャウス、ギャウス!!」
ああ、うるさい!!
耳を塞ぎたくなる気持ちを押さえながら、僕は寝室から持ってきた物をケースの中に放り込んだ。

「キャン、キャン、キャン!!」
すぐにチンチクリンはケースの中に、先程とは正反対の機嫌のいい声を上げながら飛びこんだ。
僕はいそいでケースを閉める。
…捕獲完了。



ふう。手間をかけさせやがって。
ああ、もうそんなに嬉しそうにじゃれつきやがって。
え?
チンチクリンが何にじゃれついているかって?
…ハンカチだよ、ハンカチ。
それもただのハンカチじゃないぞ。
フッフッフッ。
…入江先生のハンカチ(使用済みと思われる)だよ。
どこで手に入れたかは、企業秘密ってことで♪
全く惜しいことをしたものだ。でも仕方ない。
さ、病院へ行かねば!



着いた、着いた。
ハンカチ効果でこの駄犬も道中おとなしくしていた。
ん?
何だろう、僕のこのモミアゲレーダーがピクピクと動いた。
このモミアゲの感触は…いい予感ではないな。



「うげっ!!」
やっぱり僕のモミアゲレーダーは完璧だった!
「うそっ!!」
何が「うそっ!」だ。それはこっちの台詞だ…人間のチンチクリン!!!

「どうして大蛇森先生がここに?」
「君に説明する理由はない。」
フン!
入江先生ならともかく、チンチクリンごときにこの僕のプライベートを明かす必要はない。

「キャン、キャン、キャン!!」
あ、こいつ!キャリーを飛び出してきやがった!!
「きゃっ!」
「キャン、キャン、キャン!!」

ああ…何を考えているんだ、この駄犬!
人間のチンチクリンに飛び付きやがった。

「まあ…!」
「キャン、キャン、キャン!」
さっきまでの不機嫌さはどこへやら、何だ、その愛想のよさは!
飼い主の僕にすら、そんな様子は見せたことがないのに。

「…何か、どっかで見たことがある顔のような。」
「キャーン!」
ふん、お前とこの駄犬は一度顔を合わせているんだよ!
どうせお前の脳からはとっくに消去されているだろうけどな。

「お前は飼い主に似ないで、可愛いこと。」
チロッと僕を見ながら(何て失礼な奴!)話すチンチクリン(人間)。
チンチクリンの連れているのは…。
「ウドの大木って言葉がぴったりだな。」
「んまっ!」
チンチクリンの連れている犬はぬぼーっとしていて、図体がでかい。
「いや、飼い主そっくりのマヌケ面だと思ってね。」
「チビに失礼な!それに…。」
「チビ!?こんなにでかくてチビ!?なんていうネーミングセンスなんだ!!」
僕は爆笑した。いや、へそが茶を沸かすとはこのことを言うんだな。
アハハハハ!!
「しつけもなってないだろうね、飼い主がしょちゅう師長や医者に怒られている駄目看護師だと!!」
「だからチビは…。」
そこまで言いかけたチンチクリンの口が閉じられた。
何だ?

「キャウキャウキャウキャウキャウッ!!」
お、お前まで何だ、その吠えっぷりは!
「入江くん!!」
えっ?な、何?

「ったく、お前、これ忘れていっただろ?」
「あ、お財布!」
何だ、この馬鹿。
財布を忘れて来たのか。

それにしても。
ああ、まさか…まさか休日に入江先生と会えるとは。
あ、どうしよう!
僕としたことが、おもいきり普段着で!
恥ずかしい、大蛇森、一生の不覚!

「こ、こんにちは、入江先生。」
「大蛇森先生、こんな場所で会うなんて。」
そう、本当にこんな場所で会うなんて。
ああもうこれは、運…。

「キャウキャウキャウキャウキャウッ!!」
何だよ、僕の邪魔をしやがって!!
チンチクリン(駄犬)が入江先生に抱きつきやがった!
カーッ!!
全くお前って奴は!!



「可愛いでしょ?飼い主に似なくて。」
「こら、失礼だぞ。」
さすが入江先生。駄犬ならぬ駄妻をたしなめた。
「だって、本当に可愛いのよね。よかったわね、お前。」
入江先生からチンチクリン(駄犬)を引きはがしながら、チンチクリン(人間)は嬉しそうに話す。
「モミアゲが変なカールとかしてなくて!フフフ!」
…何て失礼な奴!!
「キャン、キャン、キャン!!」
お前も喜ぶな、チンチクリン!お前の飼い主が侮辱されているんだぞ!



突然、チンチクリン(駄犬)が僕の方を見た。
「ガウ、ガウ、ガウ!!!」
な、何だ?一体。
「どけって言っているんじゃないですか?入江くんを座らせるために。」
「キャウーン!」
チンチクリン(人間)の言葉に頷くかのような声を出す駄犬。
「ガウ、ガウ、ガウ!!!」
分かったよ、分かりましたよ。
他の人間の目も気になるので、言うことを聞く、可哀想な僕。
僕はチンチクリンの反対側へと移動する。
結構体の大きな男だから…ちょっときつい。



「さ、入江くん!」
「キャン!」
「…。」
全く琴子の奴はしょうがない。
俺も譲ってくれた大蛇森先生の顔を立てて、座った。
それにしても、この犬…。どっかで見たことあるような。



「すみません、大蛇森先生。」
「いえ、入江先生のためですから。」
そう、先生の為なら僕は!!
それにしても…。
僕は一人と一匹のチンチクリンを見る。やたらと仲よさげだ、こいつら。
おつむの程度が一緒なんだからしょうがないか。



「ガウ、ガウ、ガウ!!!」
な、何だ?
ちゃんと先生に席を譲っただろ?どうした、チンチクリン!
「どうしたの?」
「ガウ、ガウ、ガウ!!!」
チンチクリンの問いかけにも答えず吠え続ける駄犬。
…と、僕に向かって吠えているのかと思ったら、隣の男だった。
幸い、その男の連れている犬の順番が来たため、男は席を立った。
ふう、やっとゆっくりと座れる。

あ、もしかして…僕の苦痛を見抜いて吠えたのか?
僕が苦しそうに座っているから…。
何だ、結構話が分かる駄犬じゃないか。
大丈夫だよ。僕はスレンダーだからね。
うん、うん…。

「ワン!」
チンチクリン(駄犬)は入江先生の袖を口を引っ張る。
「何だ?」
先生は立ち上がり、チンチクリン(駄犬)が示す方向を見た。

「俺のボールペンじゃないか。」
…え?
「あら、本当!」
チンチクリン(人間)も声を出す。

本当だ。男の座っていた後には、ボールペンが落ちている。
「お前、これを教えてくれるために吠えたのね!」
「キャン、キャン、キャン!!」
「うーん、何ていい子なんでしょ!」
チンチクリン(人間)がチンチクリン(駄犬)の頭を撫でた。
「クゥーン!」
甘えた声を出すチンチクリン(駄犬)。
…チンチクリン(駄犬)を見直した僕が馬鹿だった、ああ馬鹿だった!!



「入江チビちゃん!」
「はあい。」
チンチクリン(駄犬)がセンスの悪いネーミング犬を引っ張る。
「本当にダサい名前…。」
言いかけた僕を遮るように、チンチクリン(人間)が言った。
「チビって名前は、裕樹くんが名付けたのよね!」
え…?
あの聡明なキューティボーイの裕樹くんが?
「そして、しつけは入江くんがしたのよね!」
「ああ。何だよ、いきなり。」
「別に。誰かさんがチビの名前がセンスが悪いとかしつけがなってないとか言うから。」
「フフン」と笑いながら、チンチクリン(人間)はチビを連れ診察室へと向った。



ああ…。
穴があったら入りたい…。
そんなことを思う僕を完全無視し、チンチクリン(駄犬)は入江先生の膝に抱かれていた ――。











☆ごあいさつ
改めて、沢山のコメントをありがとうございました。
更新することも不謹慎かと思いましたが…「待ってます」のお声に励まされ、私自身も書くことで落ち着きたかったので…お許し下さい。


もう本当に震災の状況は…目を覆いたくなります。
辛いから見たくないのですが、色々知らなければいけない情報もあるので…。


被災地まで早く物資が届けばいいけれど。
被災された方の中には障害のある方、認知症の方もいらっしゃるんじゃないかと思うと心配でたまりません。
突然の環境の激変に、これらの方々はパニックになっているのでは…そしてその方を支える御家族の苦労を思うともう泣きそうです。
どうか被災地でこの方たちが辛い思いをしていないように…それを痛切に祈ります。

被災地じゃなくとも、障害のある方は計画停電でパニックになっていらっしゃるのではないかと思います。
障害というのは目に見えるものだけじゃなく、見えない障害もあります。
いつもの決まった行動が取れないことで、パニックを起こしたり、混乱や不安を抑えるため笑う障害者もいらっしゃいます。
電車の運休等は彼らには大きなストレスになります。それは私たち以上です。
どうか皆様の周りで、そういう方を見かけたら…「非常識!」と怒りを覚える前に「もしかして?」と思ってあげて下さい。
彼らは私たち以上に、不安でいっぱいになっているのです。
そしてその不安を紛らわせる方法が分からないのです。



停電の関係上、勝手ながらコメントのお返事は難しいかと思います。
それでもいい、何か一言と思って下さった方、お気軽にお願いします。
すみません、勝手なお願いで。

ネタもこんなものですみません。
でもこんな状況だからこそ、すごいばかばかしい話で気を楽にしたかったんです。

皆様が読まれて、少しでも笑っていただけたらいいなと思います。
いや、その前に…おいで下さる方がいるのかが不安…。

読んで下さり、ありがとうございました。
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嬉しいです!

水玉さん、ありがとうございます。楽しいお話のおかげで不安が和らぎました。水玉さんが創作活動を再開して下さって、安心させていただきました。私事ですが実家の母は隔日で人口透析をうけております。今回の震災で透析薬製造の最大手製薬会社も被災したというニュースを見て焦りました。津波の映像が子供達に悪影響を与えると言うし…でも、夕方のテレビで被災地で赤ちゃんが産まれたと言うニュースを見て、涙が出ました。どうか強い子に育って欲しいです。

水玉さん更新有難うございます。
まだまだ日々あなどれない状況ですが、被災地でない私にも出来ることを、考えながら過ごし、普通の暮らしに感謝をしています。
震災後今日ようやく仙台の知人から連絡がありました。
ありがたいことにそちらの家族の皆様は元気で安心しました。
ただ、電気等はもちろん、食料がない!!と訴えていました。
ガソリンもない!!テレビでみて分かっていることですが
実際に耳にすると、気持ちが沁み込みますね。
少しでも支援していきたいですね。


定期購読って・・・
水玉さんが以前掛け軸で掲げられてた
某週刊マガジンが浮かんできました。
”創刊号は特別価格♪”
ファイルにはさんで、チンチクリンちゃんしつけ百科を作るのね(笑)
ったく、
どんなにがんばってもチンチクリンちゃんは特別だよ!!
一生懸命購読すればするほど、
琴子ちゃんと愛する入江先生の絆が深まって行き、
自ら墓穴を掘ることになるのになぁ~
けど、大蛇森先生これからもがんばってね♪

お久しぶりです

引っ越しのなんやかんやで、中々コメントも出来ずにすいません。

今、停電中なんです。

お話し読んでてホッとしました、笑わせて貰いました

ありがとうございます。

皆さんが無事で良かったです。

また落ち着いたら、カキコミさせて頂きます。

余震、停電といろいろありますが、水玉さんも気をつけてくださいね
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

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