日々草子 はじまりはダンス、そして… 20

はじまりはダンス、そして… 20





諏訪の社交界デビューは琴子が教えた甲斐もあり、大成功だったらしい。
本来ならその時点で琴子の役目は終わる予定だったのだが、琴子に好意を寄せている諏訪はそのまま東京に残ることなく、別荘に戻ってきた。
「また次回に備えてダンスを教えて下さい。」
そして結婚については、二回目となることで慎重にならざるを得ない琴子の立場を思いやってくれ、返事は本当にゆっくりでいいと言ってくれた。

当初は父親の生活のためにと思っていた琴子であったが、やがてそれは諏訪に大変失礼なことであると気がついた。
援助を理由に結婚するなど、天宮司と大して変わらない。それに優しい諏訪に申し訳ない。
一旦はそういうことからこの思いとどまった琴子であったが、自分を必要としてくれる諏訪と一緒になることは悪くはないのではと思うようになってきた。
しかし、琴子はそれでもこの結婚を承諾できないままだった。

「お姉ちゃん、お姉ちゃん。」
スカートを引っ張られて、琴子は我に返った。
「ダンス、お姫様のダンス教えて?」
「あ、ごめんね。」
自分をじっと見ている子供たちに気が付き、琴子は笑う。

最近、琴子は近所の子供にもダンスを教えるようになっていた。
教えるといっても、諏訪のように教授料を取っているわけではない。遊び相手の延長のようなものである。

きっかけは、琴子のスカートだった。
この地ではまだ、琴子がいつも身につけているスカートというものは珍しい。皆、着物姿である。
子供たちにはそのスカートがとても珍しいものに映ったのだった。
子供たちは琴子に言った。
「外国のお姫様って、こういう格好なんでしょう?」
女の子たちが目を輝かせて琴子のスカートを指差した。
「あら、お姫様なんて。」
琴子は素直に喜びを露わにした。

「外国のお姫様はね、こういう格好をしているのよ。」
琴子は幼い頃に読んでいた絵本を子供たちの前に広げた。
「わあ!」
女の子たちは絵本に描かれた綺麗なドレスを纏ったお姫様に夢中になる。
「ねえ、これは何をしているの?」
その中の一人が、絵を指す。
「これは、ダンス…踊っているの。」
そこには王子様と踊るお姫様の絵が大きく描かれていた。
「ダンスかあ…。」
飽きることなく絵本を眺めている子供たちを見て、琴子は思いついた。

「ねえ、みんなもお姫様や王子様になりましょうよ!」

そして男の子と女の子を相手に、琴子はダンスを教え始めたのである。



「お姉ちゃん、作太郎の頭から綿が出てきた!」
作太郎とは、琴子が作った不格好な人形である。女の子たちの練習相手である。
「お姉ちゃん、作子の足が取れそうだよ!」
作子も同様、琴子が作った人形。こちらは男の子が使っている。
最初は「ダンスなんて」と嫌がっていた男の子たちだったが、女の子が楽しそうに騒いでいるのを見ていたら、やってみたくなったのか、今では一緒に練習に励んでいる。

「ああ、ごめんなさいね。後で直しておくわ。」
琴子は笑いながら作太郎と作子を回収した。

「それじゃ、音楽をかけるから合わせてみましょうか。」
琴子はレコードにそっと針を落とした。
ここは村の公会堂であり、プレーヤーは諏訪から借りたものである。

「ちょっと、足を踏まないで!」
「お前がとろいからだ!」
ギャーギャーと騒ぐ子供たちを、
「はいはい。喧嘩しないの。王子様とお姫様は喧嘩はしないわ。」
と琴子は宥めるのに忙しい。



そこへ諏訪がやってきた。
「琴子さん。」
琴子は時計を見る。今度は仕事…諏訪の稽古の時間だった。
「それじゃ、また今度ね。」
子供たちを公会堂から出し、琴子はきっちりと戸締りをした。

諏訪と琴子は連れだって、別邸へと向かった。

「ねえ…。」
女の子の一人が声を出した。
「お姉ちゃんの王子様って…あの人かなあ?」
「王子様?」
男の子たちが怪訝な顔をする。
「だってお姉ちゃんはどこから見てもお姫様だもん。あの絵本には王子様がいたでしょ?」
「ならそうじゃないのか?」
しかし女の子たちは全員、顔を見合わせた。
「…王子様って、もっと素敵な人じゃないと。」
女の子は時として残酷である。諏訪が聞いたらショックを受けるだろう。
「見かけじゃないと思うけど。」
男の子たちは琴子が好きならその人が王子様だろうと、もっともな意見を口にした。
「そうかなあ…。」
女の子たちは琴子からもらった絵本を広げる。
そこには凛々しい王子様が描かれている。
「現実にはそんないい男、いないよ。」
「そうだ、そうだ。」
男の子たちの言葉に、
「いないのかあ…。」
とがっくりと女の子たちは肩を落としたのだった。



「帰ったぞ!」
「ただいま!」
「父様!母様!」
長い旅行から両親が戻ってきた。裕樹は抱きつかんばかりに二人を出迎えた。
「裕樹、長い間留守番ありがとう。」
「お土産沢山買ってきましたからね。」
父重樹と母紀子はそんな息子を抱きしめた。
「お兄様はどちら?」
紀子は姿を見せない直樹を探す。
「勉強をしているのか?ちょっとは息抜きに顔を出せばいいのに。」
旅先で医者を目指すという連絡を受けた両親は、直樹が勉強に夢中になっていると思っていた。

その時、直樹が居間に姿を見せた。
「お帰りなさい。」
「ああ、直樹、ただい…。」
「ただいま」と言いかけた重樹は、直樹の姿に目を丸くした。
直樹は手には旅行鞄を下げ、背広姿であった。

「どこへ行くの?」
紀子も驚いて訊ねる。せっかく自分たちが長い旅行から戻ったというのに、今度は直樹が旅行に行くのだろうか?
「妻を迎えに。」
「ああ、そうなの。気をつけてね。」
紀子の言葉に頷くと、直樹は慌ただしく家を出発したのだった。

「…今、あいつは変なことを言わんかったか?」
重樹が紀子の顔を見る。
「え?別にそんなことはないでしょう?妻を迎えに行くって。」
「ああ、そうか。」
二人はお茶に口をつけようとして、気がついた。

「妻!?」

いつ直樹は妻を迎えたのか。そんな連絡は受けていない。

「裕樹、どういうことだ?」
「何を知っているの?お兄様はどうしてしまったの?」
勉強のしすぎで、とうとう妄想妻を作り上げてしまったのだろうか。両親は心配になった。
「あ、ええと…。その…。」
「直樹はまさか、相手に懸想するあまり、自分の妻と思い込んでいるのか?」
「どこかのお嬢様につきまとっているの?ああ、だからあれほど、お嬢様が集まる場所に顔を出せと言ったのに!」
青ざめる両親に、裕樹はうろたえる。

「あの、それは…何から話せばいいのか…。」
直樹が琴子のばあやから、琴子の行き先を教えてもらい、そこへ旅立った事を、どこから説明すればいいのか、裕樹は頭を抱えた ――。



「ま…そういうことなの?」
何とか裕樹から一部始終を聞き終えた重樹と紀子は胸を撫で下ろす。
直樹の妄想ではない。きちんと息子が恋愛をしていたことに安堵した。
「それにしても…御苦労されたお嬢様なのね。」
紀子は琴子の境遇に同情を寄せた。
「不幸な結婚をして、気の毒なことだ。」
重樹も同様だった。

「しかし…解せないな。」
重樹は眉を潜めた。
「何がですの?」
「そのお嬢さんの実家だ。借金といい、どうも腑に落ちん。」
「どういうこと?父様。」
裕樹は心配になる。
「いやな。その天宮司という家はわしも耳にしたことがあるが…ロクな噂じゃなかった。」
「まあ、そういう人間ではあったみたいだけど。」
裕樹は直樹から聞かされた話を思い出しながら答える。
「借金の件、もしかしたら…。」
「もしかしたら?」
「…その天宮司が全て仕組んだことかもしれんなあ。」
「ええ!」
裕樹は声を上げる。

「どれ、調べてみるか。」
帰って来たばかりというのに、重樹は腰を上げた。
「父様、もう少し休んでからにしたら?」
さすがに裕樹は父を気遣った。
「何を言っとる。」
重樹は笑顔で裕樹の肩を叩いた。
「あの直樹があんなに一生懸命になっているお嬢さんのことだ。事は早い方がよかろう。」
「父様…。」
裕樹は父の優しさに胸がいっぱいになる。

重樹が書斎に向かった後、紀子は裕樹に直樹の相手について、色々と訊ねた。
「何て可愛らしいお嬢様なのかしら。」
聞けば聞くほど、紀子はその相手に会いたくなる。
「そんなお嬢様が、直樹さんと結婚してくれたらどんなにいいかしら。」
「するよ、絶対に。」
裕樹は力強く言った。
そんな裕樹に紀子は笑いかけた。
「裕樹さんまで虜にしたのね、そのお嬢様は。」
二人の息子にここまで慕われる、まだ見ぬその令嬢の姿を紀子は想像したのだった ――。

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決まれ ストライク

こんばんは
 直樹の本心は琴子が妻なんですねぇ。 パパとママに本心ズバァだから・・・ビックリしただろうなぁ・・・ビックリしすぎて直ぐに気づかずですねぇ。今まで女の方に興味なしもあり・・・色々言われてますねぇ・・
裕樹から色々聞いて 琴子の人柄も知り好感触ですねぇ。

 でもパパの直感ストライクかもですねぇ。皆の思いはそれぞれにストライクに決まって欲しいですねぇ。

久々コメント

ご無沙汰してました
でも、しっかり毎回読んでいました。毎日毎日アクセスして更新状況チェックしていました、なのにコメントできなくてスミマセン(;o;)

イリパパママ帰宅ですね、めっちゃ安心しました。天宮司と縁が切れたと思っていたのに、流石イリちゃん!直樹が気付かなかった部分な目をつけましたね♪
ママが暴走する前に直樹が覚醒モード入ったので安心です!
諏訪さんには悪いが、頑張れナオキン!

パパママご帰宅(o^∀^o)

水玉さん、こんばんは~
強力な助っ人になるであろう入江夫妻が返って来ました!!ヤッター(≧∇≦)
琴子ちゃんが諏訪様との結婚を真剣に考えだしましたょ!直樹さぁん(^_^;)早く自分の気持ちを伝えなきゃ(>_<)(>_<)
ところで、諏訪様良い人なんでしょうが、女の子達が言うように、見た目がね……(ってお前が見たんかいッ!!)

直樹さんがこの子達の前に現れたら、諏訪様を援護していた男の子達も、諏訪様ゴメンねやっぱりあんたは王子様じゃ無いょって事になりますね(^_^;)
早く来てぇぇ直樹王子様!!!

重樹パパ、紀子ママお帰りなさい♪

琴子ちゃん、直樹さんの為にと思い入江家を出てから何ヶ月も経っていて、直樹さんのその後は知らないものね。直樹さんの為に自分は相応しくないと思い込んでいるし。諏訪さんは、思った以上にいい人のようし。。。自然の成り行きからすれば琴子ちゃんが結婚を考えるのも無理は無いのね。
でも、大切な人には思えないのね。琴子ちゃんの大切な人は直樹さんだけですものね。

夢見る女の子に男の子としては一言いいたいよね(笑)
「見かけじゃないと思うけど。」~ごもっとも!

“王子様”がインプットされてからの、旅行鞄を下げた背広姿の直樹さん!いつも以上に凛々しく美しく思えました!(水玉マジック!)
その王子様が「妻を迎えに。」~!!

そして、入江パパの推測が事実なら急展開も~!!

水玉さん、お話ありがとうございます!!!
次回も楽しみにお待ちしています~♪

☆作太郎♪作子♪

きゃ~!!

王子様だぁ!!王子様だ~

水玉さん!!私興奮しちゃいましたよ!!
琴子ちゃんと子供たち♪
直樹さんの勝手に妻宣言!
そして、イリちゃんとノリちゃん帰宅♪
何だか、いいじゃんいいじゃん♪って、私勝手にテンション上がっています♪
本当は、昨晩読んだのだけど、興奮しすぎてコメントも出来なかったわ!!!!!
もう!!続きがきになる気になる!!
だってだって!!からまった知恵の輪が、徐々に解けて
そろそろ解放!!!って感じだもの!!あ~今か今か!!と待ち遠しい!!

なんてったって王子様の響きが萌ちゃうわ♪←シツコイ!!
あ~うっとり♪

妻を迎えに胸キュ~ン。

水玉さん、こんにちは。
更新ありがとうございます。

ついに直樹が、琴子を迎えに行きますね。
両親帰宅と同時に、二人に『妻を迎えに行きます』と、言う言葉を。
ママは、気づかず『行ってらっしゃい』と、でも後で気がついて、驚きの声を。事の経緯を二人に話す裕樹君。
そこで入江パパ、これには、裏が有るのではということを
パパ、真相究明宜しくお願いします。
お姫様の王子様は、直樹ですから。
琴子、早まらないでね。
直樹が妻と決めたあなたを迎えに行くから。

直樹素敵!

さくらさん名でイタキスブログを開設してる方がいたので さくら改めてさくら子としました!
よかった 入江パパとママが帰ってきて百人力だね
琴子も諏訪さん いい人だからって結婚は 好きな人じゃなきゃ しちゃダメだよ!
直樹も早く早く
琴子が 本当に好きな人は直樹王子なんだからね。諏訪さんじゃあ 見た目がダメだから(失礼なやつだ) 大切なものに気がついたら 早く迎えに行ってねー
続きを楽しみに 気合い入れて待ってます!

妻を迎えに!!

直樹、素敵です!絶対琴子と一緒に帰って来て!!そして、パパ。外見は恵比寿様みたいなのに、さすが侯爵様。鋭くてかっこいい!ママは偏屈の息子に可愛いお嫁さんがきてくれるとわかって凄く嬉しそうですね。入江家はみんな琴子を待ってますね。優しい家族。子供たちも直樹を見たら琴子の王子様だと直ぐに気付くでしょうね。

頑張れイリちゃんパパ!

ああ、やっぱり天宮司そのものが怪しかったのか~!!
妙に納得&重樹を応援したい気持ちでいっぱいです。お腹ぽよぽよしてるけど、中身はきりっとしてるのね、パパは♪直樹とは違うかっこよさですね!
早く直樹と琴子が再会して、あのむかつく天宮司親子を成敗してほしいです。ああ、待ち遠しい…!

p.s/水玉様のところは、地震大丈夫でしたか?ご無事をお祈りしております。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

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