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2010年05月16日(日)

君と交わした約束 8

【More・・・】




休日、琴子と幹は街へと出かけた。
「ありきたりの品になったわねえ。」
幹が手にしている包みを見て溜息をついたが、すぐに、
「でも結婚のお祝いなんてこんな物よね。」
と気を取り直す。
「置き時計なら困らないんじゃない?」
「そうね。入江先生の新居に似合う物を選んだし。」
今日は直樹の結婚祝いを選びに、幹と琴子が看護婦たちの代表として買い物に出て来たのだった。
どれくらい素敵な家なんだろうとか、そのうち先生は幸せ太りを始めるんじゃないかと幹が喋り続けるのを、琴子は聞き流している。

「あ…。」
幹のお喋りが止む。琴子が幹を見ると、
「…噂をしたら何とやら。」
と、幹が驚いていた。二人に向かって歩いて来たのは、直樹と沙穂子。

「こんにちは、入江先生。お休みの日にも会えるなんて素敵な偶然です。」
幹が愛想よく直樹に挨拶をする。
「こんにちは。」
琴子はペコリと頭を下げただけ。そして沙穂子の姿を見る。
―― 同じもんぺでも…今日もえらい違い…。
今日は琴子の“唯一の武器”である、白衣姿でないことが、ますます琴子を落ち込ませた。
「お二人でどちらに?」
仲がよろしいこととからかう幹。
「お式の打合せです。」
沙穂子がはにかみながら、答えた。すぐそこの式場で式を挙げるとのことだった。

「お買い物ですか?」
幹が手にしている包みを見て、今度は沙穂子が訊ねた。
「ええ…まあ…。」
明日にでも本人に直接渡して驚かせようとしていた幹は言葉に詰まる。

「…お二人の結婚のお祝いです!」
突然、琴子が話し出した。
「ちょ、ちょっと、琴子!」
幹は止めようとするが、琴子は、
「本当は明日、先生を驚かせようと思っていたんですが。」
「まあ!」
沙穂子は喜び直樹を見た。
「それは…気を遣わせて。」
複雑な気分の直樹。
「…素敵な時計を見つけることができました。よかったら窓辺にでも飾っていただけたら。」
そして琴子は二人に笑顔を向けた。
「もちろん、そうさせていただきます。ありがとうございます。」
沙穂子は礼儀正しく、礼を述べた。直樹は琴子を黙って見ているだけだった ――。


直樹は結婚してすぐに病院を辞めるというわけではないらしい。後任の医者が戦地から戻ってくるのが遅れているらしく、数週間はこの病院にいるとのことだった。
―― でも…先生はもう、私の知ってる入江先生じゃなくなっちゃうんだよね。
直樹が暫く残るのは嬉しかったが、複雑な心境の琴子。

そして、日はあっという間に過ぎていき、明日は結婚式という日になった。

その夜、夜勤だった琴子は医局の扉を開け、驚いた。
「先生、まだいたんですか!?」
もうとっくに帰ったと思っていた直樹が、まだ白衣姿で机に向かっていた。
「明日は早いんじゃ…?」
心配する琴子に、
「女は仕度があるから朝は大変だけど、男はそうでもないから。」
と答える直樹。しかも朝、病院から式場へ直行するつもりらしい。

「あの…先生。」
「何?」
少しでも直樹と話をしていたい琴子は懸命に話題を探す。が、こういう時に限ってなかなか見つからない。
「あ、院長がお仲人さんなんですってね。」
どうでもいい話題を漸く見つけ、琴子は口にした。
「ああ。」
「院長、先生のこと買ってますものね。」
「ていうか、あの人は俺が…彼女の身内になるからへこへこしてるだけだよ。」
面白くもなさそうに直樹は言った。
「沙穂子さんの身内になるから?」
「ああ。彼女の家はかなり軍に顔がきくからな。あわよくば、出世しようと目論んでいるんだろ。」
「はあ…。」
言われてみると、妙に院長は直樹に気を遣っている様子だった。そう言う事情なのかと琴子は納得する。
「凄いお家の方なんですね。でもそんなこと、微塵も感じさせなくて。」
「彼女自身は、人柄もいいしね。」
―― 本当に…あの人が好きなんだ…。
何だか惚気を聞かされている気分になり、琴子はこの話題を持ち出したことを後悔した。

あっという間に、夜は明けた。

「…ついてこなくてもいいのに。」
勤務を終え、門へと向かう直樹の後を琴子が付いて来た。
「…先生がちゃんと、お式へ向かうか確認しないと。」
琴子は笑顔で直樹を見た。
「…逃げやしないよ。」
「そりゃ当り前です。」
―― 逃げられたら、どんなにいいか。
直樹は言えない思いを胸へとしまい込む。

「相原。」
門を出ようとした直樹が、琴子に振り向いた。
「は…。」
返事をしようとした琴子の口に、直樹が何かを押し込んだ。
「う…ぐっ…!」
琴子は口に押し込まれた物を出す。それは…芋だった。
「…間抜けな面。」
直樹はクスッと笑うと、
「…じゃあな。」
と、言い残し、門を出て行った。
「…お気をつけて。」
直樹に聞こえない声で、琴子は呟いた。

そして、直樹の姿が見えなくなり、手にしていた芋を齧る。
「…しょっぱい。」
塩でも振ってあるのかと、芋を見る琴子。その芋にポツリポツリと涙が落ちる。
「何だ…涙って本当にしょっぱいんだ…。」
そしてまた、芋を一口、一口と大切に齧る琴子。
―― このお芋…ずっとこのまま取っておければいいのに。
しょっぱい芋を齧りながら、琴子は涙を零しつつけた ――。
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Comment

こんばんは!

入江先生の結婚が近付いてきて、幹ちゃんと2人で、結婚祝いを買いに出かけた琴子。
その帰り道で、入江先生と沙穂子さんの姿を見た琴子。

琴子に取ったら、この二人のツーショットは見たくないですよね。
でも、入江先生も琴子に見られたくなかったように感じたんですが・・・

もしかして2人は両思いなのかも・・・
でも、琴子が入江先生に告白をするわけないから、入江先生に動いてもらうしかないのですが・・・

琴子に取ったら本当に切ない恋ですよね。好きになった人には婚約者がいて、知り合うのが遅かった感じです。

この二人の関係はこの後どうなるんでしょう・・・
りきまる | 2010.05.16(日) 19:28 | URL | 

水玉さん、こんばんは
幹ちゃんと結婚祝いを買いに出かけた琴子
まさか、入江先生と沙穂子さんに、会うなんて
仲良く二人でいる姿を観た琴子。
本当に辛すぎますね
ましてや、式の打ち合わせとなると
入江先生、式に乗り気では無いような素振りですが
琴子の事が、気になるのかしら
式当日、入江先生をを見送る琴子
入江先生は逃げ出せるなら、逃げ出したいと。
先生、引き返すなら今しかないよ。
琴子の事、好きなんでしょう。
琴子は入江先生の事、好きなんだよ。
どうするのかしら、式に出るのかしら。
入江先生も琴子も切ないですね。
続きお待ちしています。

tiem | 2010.05.16(日) 21:46 | URL | 

今回の直樹の気持ちがよくわからなくて
不安だわ・・・
↑いつもなら、お子様みたいに態度で表現して
琴子ちゃんを好きなこと、十分わかるんだけど・・・
今回の直樹は妙に大人だわ・・・・

もう!!すぐに結婚じゃないですか??
いったいどうなっていくのかしら??
続きが気になります!!

琴子ちゃん!結婚のお祝いのお品、
選ぶの辛かったね。
沙穂子さんと入江君が歩いている姿を見るのも、辛かったよね。
ゆみさんが、慰めてあげるわ~♪琴子ちゃん♪
けどけど、直樹の行動が全く読めないわ。私。
ゆみのすけ | 2010.05.17(月) 10:21 | URL | 

●ありがとうございます

コメントありがとうございます♪

りきまるさん
一番見たくないツーショットですよね!!
そして顔で笑って心で泣いて…本当にどれだけ辛かったか、琴子ちゃん。
入江先生もこんなところを一番、誰よりも琴子ちゃんに見られたくなかったんじゃないかと思います。
面白いのは…入江先生が琴子ちゃんが自分を好きだと気が付いていない点なんですよね。今回の琴子ちゃんは控えめ路線ですから…。

tiemさん
引き返したくても引き返せないんでしょうね…。
色々あるでしょうし…何か決定打がないと。
二人が一緒にいる理由が式の打ち合わせとなると…また琴子ちゃんにとっては辛い状況ですよね…ああ書くの辛い…(笑)

ゆみのすけさん
なぐさめてあげて~!!もう可哀想な私たちの琴子ちゃん←いつから所有物に(笑)
そうそう、私の大好物、ドナドナ琴子ちゃんの次に大好物なお子様直樹も今はお預けなのよね~ハッ、それが私にとって一番辛いのか(笑)
ちょっと今回は(自称)ミステリアスな直樹に挑戦な私です(笑)

佑さん
ありがとうございます!!ああ、その言葉もとても嬉しい…色々あるけど、それ、結構ジーンときます!!

いたさん
読み返して下さったんですか!ありがとうございます!ということがあるから…きちんと流れをもって書かないとまずいんですよね(笑)
そう思わせておいて、覆してきた私、そしてその覆す方法が…「はあ!?そんなのあり!?」と叫ばずにいられない方法だった私(笑)
でもこの時代も駆け落ちとかありそうですよね~駆け落ちって当人とその家にとってはもう大変だけど、聞く方は「素敵~」って気分になってしまいます♪

foxさん
醤油三度づけせんべい…美味しそう♪とりあえず、甘い物の出番はありましたか?もしそれならちょっと嬉しいかも…♪だって私、どうも悲しい話とか切ない話が苦手で!!誤魔化しがきかないからかな…?歌と似てます(笑)音痴なのですが(ここでカミングアウトする私)、音痴ってバラード歌うとすぐにばれる(笑)でも音痴なくせにバラードを歌って、自己陶酔する…(笑)あ、本当に似てるかも(笑)

まあちさん
だって式当日にしないと、話進まないんだもん(笑)
とかいいつつ、またもやワンパターンで芸のない行動に走る私(笑)
だって…空襲とか描写がとてもじゃないけど…書けません。これは一冊やそこら本を読んだ程度では…無理!!
すでにもう時代背景を無視しまくっている私です(笑)
水玉 | 2010.05.17(月) 23:46 | URL | 

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