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2009年03月28日(土)

万華鏡 24

【More・・・】

重雄が帰った後、琴子は自室で直樹が描いた自分の絵を見つめていた。
「私も…新しい人生を歩く時なのね、きっと。」

数日後、琴子は金之助の店へと出向いた。
幸い、金之助は店にいた。

「お父様から伺ったのだけれど…。金ちゃん、私と結婚したいって…。」
琴子が切り出した途端、金之助が体を固くした。
「お、俺なんかがお嬢さんと結婚したいなんて、身の程知らずとは分かっているんですが。ずっと、お嬢さんの家にいた時から俺はお嬢さんのことを…。」
真っ赤になってしどろもどろになっている金之助を見ながら、琴子は微笑み、そして手を付いた。
「…ふつつか者ですが、よろしくお願いします。」
その言葉を聞き、金之助は驚いたが、すぐに顔いっぱいに笑顔を広げた。
「じゃあ、じゃあ…。結婚してくれるんですか?」
その言葉に、琴子も笑顔で頷く。
「やったー!やったー!ありがとう、ありがとうございます!」
金之助が琴子を強く抱きしめた。琴子は金之助の腕の中で、
「これでいいのよね…。これで私もきっと幸せになれるのよね…。」
と思っていた。

金之助と共に重雄が宿泊しているホテルへ出向き、二人で結婚することを報告すると重雄は大喜びだった。琴子はそんな父親の様子を見て、親孝行ができたと安堵していた。
琴子は、重雄に結婚のことは入江家の人間には黙っていてほしいと頼んだ。重雄と金之助は怪訝に思ったが、直樹の結婚で大忙しの中、自分の結婚のことで紀子たちに迷惑を掛けたくないと説明を聞き、納得した。
「それから…私、早いうちに金ちゃんの元で暮らしたいんだけど。」
琴子の言葉に金之助と重雄はさらに仰天した。
「ほら、女手が足りないでしょう?俥屋さんで働いている人たちのお世話もしたいし、私もお客様に顔を覚えてほしいし。おかみさんとして。」
その言葉を聞き、金之助は感動のあまり涙を流した。
「だから…結婚式は後でも、早く慣れたいの、金ちゃんとの生活に。」
きちんと結婚してから、一緒に暮らしてほしいと重雄は思っていたようだが、琴子の考えを聞き、こちらも納得してくれた。

一応、一度は自分と暮らして嫁に出したいという重雄の考えも琴子は受け入れ、結局、数週間後に重雄が入江家へ琴子を迎えに行くこととなった。
それまでの間、琴子は金之助の店へと顔を出すようにした。

「あと二週間かあ…。」
その日も金之助の店へ顔を出した帰り、琴子はかつて直樹を案内した池のほとりに座り込んでいた。
「何が二週間なんだい?」
後ろから突然声をかけられ、琴子は驚いて振り向いた。
「おばあちゃん!」
そこには直樹が家出をして住んでいた長屋の大家のトヨが立っていた。
「だからあたしはあんたのおばあさんではないと、何度も言ってるじゃないか。」
不機嫌そうな声とは裏腹に、トヨは琴子の傍へ座り込む。

「相変わらず間の抜けた顔してるね。」
「お、じゃなくてトヨさんも元気そう。」
琴子はトヨと再会できて嬉しかった。
「で、何が二週間なんだい?」
トヨの問いかけに琴子は少し黙ったが、言った。
「私…あと二週間で直樹さんの家を出るんです。」
「とうとう追い出されたのかい。役に立たないからって。」
トヨの嫌味に琴子は笑って首を振った。
「違うの。…直樹さん、結婚するの。」
その言葉に、さすがのトヨも驚いた。
「誰と?」
「…お金持ちで家柄もよくて、美人で何の欠点もない侯爵様のお嬢様と。とてもお似合いなの。」
「へえ…。」
「それでね、私も結婚することになったのよ。」
「…あんたを嫁にもらおうという、勇気のある男がこの世にいたのかい。」
「小さい頃からよく知っている人。私、俥屋さんのおかみさんになるの。」
そこまで話して、琴子は黙り込んだ。
「…嬉しいのかい?嫁に行くことが。」
トヨが訊ねる。
「嬉しいに決まっているわ。望まれて嫁ぐことが女の幸せだっていうくらいだもの。その人は私のことを大切にしてくれるし。」
「…じゃあ、何であんたは泣いているのかね?」
話しながら、琴子は泣いていた…。

「ねえ、トヨさん。」
泣きながら琴子はトヨへ話しかけた。

「…ずっと先、将来。もし、身分とかがこの世からなくなっている時代に、私と直樹さんが生まれていたら…。私、直樹さんにしつこいくらい、うるさがられるくらい“直樹さん、大好き”って大きな声で言えるかしらね?」
「…大嫌いって直樹さんから言われるのがオチかもしれないね。」
トヨの返事を聞き、琴子は泣きながら笑った。
「大好きって言い続けたら、その世界では直樹さん、私のことをお嫁さんにしてくれるかしら…?」
「さあ。直樹さんにも選ぶ権利はあるだろうしね。」
また琴子が笑った。

「…私、直樹さんのこと大好きで、ずっと心の中では言い続けてたのよ?でも口にはできなかったの。」
「あんたの気持ちは直樹さんにはバレバレだったけどね。」
「ばれていても、一度でいいから、好きですって言いたかったな…。」
「言えばよかったのに。」
琴子は首を振った。
「言えない…。そんなこと、口にしてはいけない相手だって分かっていたから…。だから言ったら直樹さんが困ること、分かってるもの。直樹さん、私が絵を描かなければいけなくなった時、最後まであきらめずに教えてくれたの。冷たいくせに、本当は優しいの…。だから、直樹さんが困る顔なんて見たくない。」
そこまで言うと、琴子は俯いてしまった。トヨは黙ってそんな琴子を見ていた。

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♪あとがき…というか御連絡
頂戴した拍手コメントのお返事は、コメント欄にてさせて頂いております^^
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19:24  |  万華鏡  |  TB(0)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●プラトニック・ラブ

好きな相手に「好き」と言うことが難しい時代なんですよね。だからこそ、その一言の重みは計り知れないものなんだと思います。水玉さんの情感のこもった文章は読み手の胸をうちます。せつなさ1000%
さくや | 2009.03.28(土) 19:53 | URL | 

●No title

遅くにすみません m(__)m 胸がしめつけられました(:_;) 切ないです 好きなのに好きと言えないなんて・・・琴子の心からの笑顔が早く見たいです
yumiko | 2009.03.29(日) 00:43 | URL | 

●ありがとうございます

さくやさん
そうなんですよね。きっと今みたいに自分の気持ちとか素直に口にできない時代なのかなあと、勝手に想像していますが。現在、熊手で伏線を回収作業中です(笑)

yumikoさん
いえいえ。遅くにUPしている私が悪いんですから(笑)
お気になさらずに、何時でも頂けるとうれしいです。
水玉 | 2009.03.29(日) 13:36 | URL | 

●あうあうあうあ・・・・

切ないよ・・・琴子が健気過ぎて涙が
あああああああ・・・・
ミルク | 2009.03.29(日) 13:41 | URL | 

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