日々草子 猫神家の一族 17

猫神家の一族 17

お待たせして申し訳ありませんでした!
コメントのお返事も滞って申し訳ありません。
そろそろ、あじさいハンターの準備に入りつつあるので。でもこのお話は完結させてあじさいハンターに行きたいと思っております。







夜遅く戻った直樹の父、重樹もとても優しい人だった。本当は黙っていたかった父が不在の理由も琴子は話してしまい、それを入江夫妻は大笑いしたのだった。

翌朝、琴子が目覚めた時は直樹の姿はそこになかった。
「よう、寝坊野郎。」
創立記念日ということで家にいた裕樹が、遅く起きてきた琴子を辛辣な言葉で出迎える。その通りなので琴子が何も言い返せずにいると、
「裕樹、どうしてそういうことを言うのです。」
と、紀子が琴子を庇ってくれた。
「すみません。私ったら…。」
「まあ、いいのよ。それにお兄ちゃんが言ったの。琴子ちゃんは猫神のお屋敷ではゆっくり眠れていないだろうから、起こさないでほしいって。」
「入江さんが?」
思いがけない直樹の優しさに琴子は驚いた。
「あの、入江さんは?」
「ああ、ちょっと出かけてくるって。」
「そうですか…。」
優しくしてくれたことは嬉しいが、置いて行かれてしまったことが少し悲しい琴子であった。

「探偵を置いていく相棒なんて…。」
「探偵?相棒?」
裕樹がすかさず、琴子の独り言をとらえる。
「何だ、それ?」
「ええと…入江さんは軍医さんだったでしょう?それで、ほら、ホームズみたいだって言ったら、入江さんがホームズは軍医じゃないって。」
「ほう、シャックリ・ホームズは軍医なのか。」
ニヤニヤしながら裕樹が琴子をからかう。
「いや、シャックリも軍医じゃなかったんだけど。いや、それは違うお話で、入江さんはそれを言うならスンベロッチョ…じゃない、ええと、ええと。」
「ワトソンだろ。」
「そう、そのワトソンさんが軍医だって入江さんが教えてくれて。じゃあ、入江さんはワトソンで私がホームズねっていうお話をしていたの。」
「シャックリとシャーロックの違いも気づかない奴が名探偵名乗るな。お前、コナン・ドイルに土下座して詫びろ!」
「はい、入江さんにも同じ声でそう言われました…。」
兄弟言う事は同じなのだなと琴子が感心した。

すると、
「…軍医?」
という声が聞こえ、琴子は振り返った。そこには、遅い朝食の支度ができたことを告げに来た紀子が驚いた顔で立っていた。
「お兄ちゃんが軍医って、自分で名乗ったの?」
「あっ…。」
母の言葉に、裕樹も驚いた声を上げるではないか。
「はい。あ、でも成り行きで名乗ったような所もあって。」
二人はなぜそのような反応を見せるのだろうと不思議に思いながら、琴子は猫神家で猿子が倒れた様子、そしてそれを直樹が処置して助けた話をした。

「でもお兄ちゃんが軍医と言ったことは間違いないよな。」
それでも裕樹は複雑な表情を変えなかった。紀子も同様である。
「あの…もしかして、入江さんは軍医ではいらっしゃらないのですか?」
やはり銀田一探偵の弟子と同じパターンなのかと、琴子は不安になってきた。
「え?まあ、いいえ。ちゃんと医大を卒業しているのよ。」
紀子が取り繕った笑顔を見せる。
「じゃあ卒業はしたけれど、資格はないとか?」
「なぜニセ医者にしたがるんだ、おい。」
ようやく裕樹がいつもの口調を取り戻し始めた。
「ちゃんと医師免許もありますし、軍医として外地へ出ていたことも本当なの。」
「そうですか。」
では、どうして二人は驚いたのかと聞きたい琴子であったが、それ以上追求することはやめておいた。家庭の事情が色々あるのかもしれないし、他人の自分が首を突っ込むことはよくない。



「ねえ、裕樹くん。」
なぜか朝食をとっている自分に付き合って、そのテーブルに座っている裕樹に琴子は声をかけた。
「何だよ?」
「あの、入江さんって、女性に対してどんな風に接するのかしら?」
「どんな風って」と裕樹は宙を見つめ思い出そうとした。
「あんまり女と一緒にいることってないからなあ。」
「あ、そうなんだ。」
この言葉に琴子は胸を撫で下ろした。とりあえず、決まった相手は直樹にはいないらしい。
「親父の付き合いでパーティーに顔を出した時くらいか。その時は丁寧に接していると思うけれど。」
「丁寧って…。“失礼、マドモアゼル。あまりにあなたが美しくて引き寄せられてしまったのです”とか、“あなたの白魚のごとき美しい手に接吻を”とか?」
「…そんなキザな兄はいらない。」
何をゴタゴタと並べるんだと呆れた後、
「普通だよ。ごきげんようとか、素敵なパーティーですねとか。まあドレスや振り袖を相手に自慢されたらお似合いですと言ったり。とにかく相手の気分を害さないってところだ。」
と答えた。

「お前と初めて会った時って、どんな感じ?」
と裕樹が逆に質問をしてきた。
「初めて…。」
琴子は「はあぁ!」と大きな溜息をついた。
「…ワンピース似合うなんて言ってくれなかった。」
「似合ってなかったんだろうよ。」
「丸太を積んだ大八車にひかれても丈夫そうだって。」
これに裕樹が意外だという顔をしたのだが、琴子は気づかない。
「他には?」
「お前は箱入り娘というより箱に入れられても手足を突き出してどうこうするとか。」
「…へえ。」
「なあに?」
大笑いするかと思いきや、裕樹が大人しいので琴子は何か言いたいのかと目を向けた。
「…別に。」
裕樹は部屋に戻ると言い、立ち上がった。

「…珍しいな、お兄ちゃんが初対面で地を出すなんてさ。」
部屋に戻った裕樹は一人呟いた。
「親父の会社関係じゃないから気を遣うこともないからなんだろうが、でも家に連れて来たりして。」
そして一番意外だったのは。
「…まさか、軍医をしていたことを言うとは。」



夕方になり、直樹が戻ると居間から笑い声が聞こえていた。ドアをそっと開けてのぞくと、琴子を囲むように紀子、そして裕樹がそこにいて話に夢中になっている。重樹はまだ戻っていないらしい。
「話が穴だらけだよ。ったく、くだらない。偽物を作るならもっとまともに作れって。」
「でも面白いわ。スンベロッチョのマヌケなところとか。」
「お前そっくり。」
「ひどい!」
「裕樹!」
昨日会ったばかりとは思えない三人の様子に、直樹の頬が思わず緩む。この光景が、事件が終わった後もずっと続いてくれたらどんなにいいか…と思った時、それは琴子がこの入江家にいるということになるのだと直樹は気づいた。
「そんなことがあるわけない…。」
直樹が思った時、
「あ、お兄ちゃん!」
「まあ、そんな所でのぞき見なんて、お行儀が悪いこと。」
と、裕樹と紀子が直樹に気づいた。
「入江さん、お帰りなさい。」
琴子が笑顔で迎えてくれる。この笑顔をずっと見られたら…と思いかけた直樹はすぐにその考えを消し去ろうと努力した。

「入江さん、今日はどちらに?」
着替えに行く直樹について廊下で二人きりになった時、琴子が訊ねた。
「まあ、後で教える。」
「一緒に行きたかったなあ。」
不満そうな琴子だった。
「おーい、琴子。本物のホームズの本、どこにしまったか思い出した。」
裕樹が階下から琴子を呼んだ。
「どこ?」
「物置。二階の一番奥。」
直樹がどこへ行ったのか、いやそもそも東京に何のために一度戻ったのかを訊ねたかった琴子であったが、聞いても教えてくれないことはこれまでの付き合いでわかっていたから、気を取り直して本を探すことにした。



物置に籠もった琴子であったが、さすが大金持ちの屋敷。物が多い。
「どの辺にあるのかしら?」
ガタガタとあちこち動かしながら探していたが、躓いて転んでしまった。更に悪いことに、転んだ拍子に側に積まれた物が琴子の体にバサーッと倒れてきた。
「痛い…何が倒れてきたの?」
重くて起き上がれずにいる琴子は手を伸ばした。
「これ、お見合い写真?」
頭の上に落ちているものも、見合い写真である。釣書を見るとそれは明らかに直樹の相手。
その時、物置のドアが開きその間からポーンと何かが放り込まれ、琴子の頭にゴツンと当たった。
「痛い!」
「何だ、まだいたのか。」
物を投げたのは直樹だった。しかもそれも見合い写真。
「お前、前も物の下敷きになってたよな。そういう遊びで楽しむ趣味?」
「そんな趣味を持つ人はいないと思います。」
からかいながらも、見合い写真の山の下敷きになっている琴子を直樹は助け出してくれた。
「これ、すごい量ですよね。」
いずれも名家の令嬢と見受けられる見合い写真だった。
「なんで投げたりするんです?」
「必要ないし。」
だから直樹は物置に放り投げに来たのだという。
「写真って捨てづらいだろ?だからここに置いているんだ。」
戦地から戻った御曹司、しかも眉目秀麗と来たら見合いの話が山となって来ることも無理もないと琴子は思った。やはりそういう話は直樹にもたくさんあるのだと落ち込まずにいられなかった。

「この令嬢たちのほとんどは、もう嫁に行っているだろうな。」
崩れた写真を手に取り、直樹が言った。
それは残念だと思っているのだろうかと、更に琴子は不安になる。
「次からは少し真面目に検討するか。」
「検討って…。」
「親父の仕事を手伝うなら、あんまり粗略にするのもまずいだろうし。」
「お父様のお仕事を手伝うのですか?」
「ああ。事件が解決したらな。」
「入江さんは、お医者様なのでは?」
これらの見合いを受けてほしくないという思いより、違う思いが琴子の口から出た。
「入江さん、お医者様としてお仕事をされないのですか?」
琴子の問に直樹は何も答えなかった。そして最後の写真をポンと山の上に乗せて物置を出て行った。
その背中はどこか辛そうに、琴子には見えた。

 
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このお話も面白いですよ。

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水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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